渋沢栄一と蓬が嶋

現在の『蓬が嶋』
一万円札の顔
渋沢栄一(しぶさわえいいち・1840~1931)は多くの日本の代表的な企業を創設し、東京証券取引所や東京商工会議所の設立にも関わりました。近代日本を代表する経済人であり、令和6年(2024)より一万円札の顔としてもおなじみです。
珍しい菓子を贈り、喜ばせる
栄一の次女・琴子の夫は、大蔵大臣、東京市長などを歴任した阪谷芳郎(さかたによしろう)で、家族の集まりのほか、公の会合、式典でも栄一とよく同席していました。芳郎は著作『余が母』で母・阪谷恭と、栄一との思い出を次のように記しています。
「或る時翁は余か母を喜はせんとて特に赤坂の虎屋と云ふ宮内省御出入りの菓子屋に命して蓬ヶ島と云ふ珍らしき菓子を調整せしめて贈られけるに余か母は深く喜ひ御禮にとて歌一首を讀まれたり
ありかたき蓬か島のみめくみに なほ幾とせのよはひかさねん」
〈訳〉ある時、翁(栄一)は私の母を喜ばせようとして、特別に虎屋という宮内省出入の菓子屋に命じ、「蓬が嶋」という珍しい菓子を作らせて贈らせたところ、母は深く喜び、御礼に歌を一首詠んだ。
(歌意)ありがたい蓬が嶋の恵みゆえに、私も幾年か年を重ねましょう
蓬が嶋とは、不老不死の仙人が住むとされる蓬莱山の別名。大きな饅頭を切ると、中にはいくつもの小さな饅頭が入っており、子孫繁栄にも通じるおめでたい菓子です。宝暦12年(1762)、近衞内前より銘を頂戴しました。恭の御礼の和歌からは、贈り物に込めた意図が伝わったことがうかがえ、栄一も喜んだことでしょう。
こちらもご覧ください:近衛内前と蓬が嶋/渋沢栄一と金魚の菓子/渋沢栄一と菓子
*連載「歴史上の人物と和菓子」を元にした書籍 『和菓子を愛した人たち』(山川出版社、2017年)が刊行されております。そちらも是非ご一読くださいませ。
参考文献
阪谷芳郎『余が母』 大正14年(1925) 国立国会図書館蔵
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