歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
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2018.04.18

本山荻舟と羊羹

『製菓製パン』昭和31年8月号 製菓実験社

食の研究家、本山荻舟

本山荻舟(もとやまてきしゅう・1881~1958)は、『名人畸人』や『一刀流物語』など、歴史小説を多く手掛けた作家です。その作品は、文章が洗練されている点や、考証的な姿勢と物語としての面白さをあわせもつ点で、一般読者だけでなく作家仲間からも高く評価されました。二十歳の頃から30年強、新聞記者をつとめていた荻舟は、紙面では料理記事を担当し、食に関する評論や随筆も多く書きました。晩年、編纂に力を注いだ『飲食事典』(1958)はその集大成といえ、食材や料理の歴史から調理法までを網羅した食の名著となっています。

菓子髄一は羊羹

荻舟が得意とした分野には、もちろん菓子も含まれ、随筆中で草餅や粽の歴史について論じたり、『製菓製パン』をはじめ食関係の雑誌に菓子の批評や解説を書いたりしています。以下は、同誌の昭和31年(1956)8月号に掲載された「菓子と心構え」から、羊羹について語った部分。

「私は菓子のなかで羊羹に一番興味がありまた好きである。羊羹は実に千差万別だが、食べてみればその質の良否はすぐ判る。寒天や餡の按配あるいはその切り方だけで味が変るといわれるこの羊羹は、そのテクニックのむつかしさだけからみても菓子髄一のものだろう。料理の方では、その板前の腕をみるのに「椀、刺身」といわれるが、菓子ではそれに当るものが羊羹だろうと思っている。」

食通の荻舟が、羊羹を一番としているのが嬉しいところです。「切り方だけで味が変る」というのも大変うなずける話で、切った断面の滑らかさによって食感は変わりますし、厚さによって甘さまで違って感じられることがあります。よく羊羹を食べていたからこそ出た言葉でしょう。さすがと思われるのは、製造の難しさに触れているところ。煉羊羹は小豆、砂糖、寒天で作られるので、原材料だけ取って見れば非常にシンプルですが、それゆえに、職人の腕がそのまま味に反映される菓子ともいえます。実は、料理への関心が高じて、小料理屋を開いた経験もある荻舟。自ら板前として店頭に立っていたといいますから、美味しいものを作る難しさについては、しみじみ感じるところがあったのかもしれませんね。

※この連載を元にした書籍 『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

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