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歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
※ お菓子の画像はイメージです。お問い合わせは菓子資料室 虎屋文庫までお願いいたします。

2019.03.15

山中共古と煎餅の拓本

東京都八王子市の桑都(そうと)煎餅。菓子の栞が貼られているのは珍しい。
「続共古日録」3巻 国立国会図書館蔵

民俗学者の日記

民俗学の先駆者として知られ、明治~大正時代に活躍した山中共古(やまなかきょうこ・1850~1928)。『共古随筆』に書かれた東京の菓子について以前ご紹介していますが、今回は彼の残した日記、「共古日録」「續共古日録」を見てみましょう。なんと、たくさんの菓子の拓本が出てくるのです。菓子に紙をあて、墨などでこすって形をうつしとるもので、共古はよく「すり形」と書いています。
落雁などの干菓子や最中、月餅もありますが、もっとも多いのは煎餅です。当時の菓子の大きさと意匠をそのまま伝えてくれる、今となっては貴重な資料。共古は愛すべき菓子マニアの一人といえそうです。

煎餅いろいろ

当時は小麦粉の生地を金型で焼き上げた煎餅が多く、その表裏の絵柄や文字を写したものが二十点以上。南部煎餅をはじめとする、現在に続く名物はもちろん、縄文土器、東郷元帥、隅田川の桜葉まで種々の意匠が見られます。煎餅の意匠も時代を知らせるものだと書いているように、これらは意識的に集めていたものなのです。
彼の好みを教えてくれるような記述も見られます。鬼の顔の煎餅を写しながら、食べ物は「一見して心地よきもの」を形にすべきで、花や景色などが良い、「鬼面の類」は菓子にするべきではなく「不心得のこと」と手厳しい評価。もっとも味は悪くなかったようで、生姜入りもあって「味可なり」としているのがほほえましいところです。
菓子は気持ちの良いデザインであって欲しい、という思いは、他日の記載からもうかがえます。商店の広告尽くしという趣向の煎餅を前に、「食物にかゝることを為す面白からぬこと」「薬や下駄屋迄を食すことにて」とおかんむりです。確かに下駄の広告を食べなくても、という気持ちもわかりますが、アイデア商品といえなくもないでしょうか。
民俗学者らしく、煎餅の名の由来について文献名を挙げながら記すこともありましたが、茶店で出されたりお土産に貰ったりした菓子を、時に丁寧に、時にはかなりラフに写し取っている共古は実に楽しげです。煎餅の拓本は、彼の小さなライフワークだったかもしれません。

煎餅以外の菓子も散見される。
阿波(徳島県)の「ヘギもち」は、焼く前後の大きさが両方写されている。
「続共古日録」3巻  国立国会図書館蔵 

 

※この連載を元にした書籍 『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1,944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

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