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歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。

※ お菓子の画像はイメージです。お問い合わせは菓子資料室 虎屋文庫までお願いいたします。

2018.07.17

川瀬一馬と蕨餅

書誌学者が記した随筆

川瀬一馬(かわせかずま・1906~99)は昭和期の書誌学者。『古活字版之研究』『古辞書の研究』といった研究書や論文を多数発表したほか、旧安田財閥の安田文庫で典籍収集を行ったことなどでも知られます。

終戦間もない昭和22年(1947)、友人から勧められて執筆したのが『随筆 柚の木』です。全国各地の寺社や旧家の書庫を訪れた際の体験談や、恩師から受けた教え、研究の合間に親しんできた香道や能といった趣味の話など、その話題は多岐にわたっています。

東大寺門前の蕨餅屋

「大仏のわらび餅」では、奈良を訪れた際よく食べに行ったという、蕨餅屋について次のように語っています。

「その奈良で、私がわざわざ廻り道をして喰べて帰りたいと思ったのは、東大寺の大仏殿の門前にひさぐわらび餅であった。無論そう大したものでもないが、一寸変っていて賞美出来たものである。(中略)わらび粉をかいて蒸し、それにきな粉をまぶして蜜と砂糖とをかけて供するもので、葛餅とはまた異なる淡白さがよかった。糊などにも使う純粋のわらび粉を用いているらしく、何でも伊賀あたりで採れるものだと言っていた。時には鹿の群とたわむれたりしてゆっくり蒸し上るのを待って喰べて戻ったこともある。」

蕨餅は、蕨の根から採れる澱粉で作った、艶のある黒褐色の生地が特徴の菓子で、古くから街道や門前などの茶店で供され親しまれています。しかし、蕨粉は採取量が少ないため江戸時代から葛粉で代用され、今も本物の蕨粉は希少品です。川瀬もためしに奈良市内の土産物屋で蕨餅を買っていますが、いつも食べているものと全く比べ物にならなかったとがっかりしているので、これは代用の澱粉で作られていたのかもしれません。

随筆では、お気に入りの蕨餅屋は戦争の半ば頃に閉店してしまったとあり、川瀬は店の再開を是非にと念じています。その土地ならではのものを食べることは、旅の楽しみの一つ。彼の願いに共感する人は多いのではないでしょうか。

※「半返し」という製法。蕨粉の生地を半分火が通った状態まで煉ったあと、蒸籠に入れて蒸しあげる。

※この連載を元にした書籍 『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

参考文献:

川瀬一馬『随筆 柚の木』中央公論社 1989年

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