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歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
※ お菓子の画像はイメージです。お問い合わせは菓子資料室 虎屋文庫までお願いいたします。

2018.02.16

井伊直弼と菓子

虎屋の「大徳寺金とん、同 紅」
「數物御菓子見本帖」(1918)より

井伊直弼(いいなおすけ・1815~60)は、2003年2月に取り上げていますが、今回は茶人宗観(そうかん)としての著作『茶湯一会集』を中心に、菓子に関する記述を見てみたいと思います。

 

「口取は、手製をよしとす」

口取(くちとり)とはこの場合、茶事における懐石後に出される主菓子を指します。宗観は手製の菓子を用意するのが良いと言っています。

同書の別の箇所には、手製のものを出す際、“お口に合うか分かりませんが、もし気に入って頂ければ、お替わりを差し上げますと客に言いなさい”と書いています。客はおいしければ、お替わりを求め、これを受けて亭主は、“ご所望、有り難うございます”と言い、客は亭主に菓子の風味の良さを誉めるなど、一連のやり取りが続きます。さらに“手製だからといって、必ずお替わりされるわけではありません”とまで記されており、笑いを誘います。

ちなみに当時、大名の中には、手製の菓子を贈る人や自ら菓子をデザインする人もおり、殿様たちの菓子に対する関心の高さを窺い知ることができます。この点に関しては2018年3月発刊の機関誌『和菓子』25号でもご紹介する予定です。

「菓子の名むつかしきはうるさきものなり」

宗観は菓銘に関して、凝った銘はわずらわしい、と記しています。当時のお茶は少人数で食事を伴う茶事形式が基本。茶碗、茶器、茶杓、香合などの茶道具には銘があるでしょうから、凝った菓銘までとなると、少しうるさいのでしょう。彼の流派は、利休の長男千道安の流れを汲む武家茶道の石州流。利休の侘びの精神に重きを置き、作意が目立つことをきらい、自然であること、常なることを求めます。主はお茶、菓子はあくまでも添えです。

彼が懐石で使う菓子、食材を時候ごとに整理して書き留めた「懐石留」には、春「椿餅」、夏「吉野巻、葛饅頭、琥珀糖」、秋「青砧巻」、冬「佐野の雪、岡の雪、千歳鮨」など季節や余情を感じさせる菓銘を見ることができます。また宗観の会記から、彦根や江戸で、自ら亭主を務めた会での主菓子を見ると、「大徳寺きんとん紅白」「白煉羊羹」「春雨羹」「草求肥」「桜餅」のほか、「伏見 羊羹」「京製 椿餅紅白」など、明らかに菓子屋のものと思われるものも見受けられます。もしかしたら駿河屋製や虎屋製を使っていたのかもしれません。

「手製をよしとす」と言う一方、他方でそれに縛られることなく、菓子屋の好みのものも自由に使った宗観のお茶は、実は型にはまった堅苦しいものではなく、客人をおもんばかった、臨機応変なもてなしの茶だったのではないかと思います。

※この連載を元にした書籍  『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

参考文献:

井伊直弼『茶湯一会集・閑夜茶話』岩波文庫 2010年
熊倉功夫編 彦根城博物館叢書3『史料 井伊直弼の茶の湯(下)』彦根城博物館 2007年

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