歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
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2017.12.15

向田邦子とカルメ焼

人気の放送作家

テレビドラマ「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」などの放送作家として人気を博し、小説や随筆も手がけた向田邦子(むこうだくにこ・1929~81)。日常の暮らしや人々の心の機微を精妙に描いた作品の数々は、今も多くの人を魅了しています。その一つ『父の詫び状』は、向田家の思い出話を中心に綴ったもの。せっかちで癇癪(かんしゃく)もちの父と、それに振り回される母や子どもたちの様子が、あるときは滑稽に、あるときはちょっと切なく書かれています。

カルメ焼、膨らむか膨らまないか

同書の「お八つの時間」では、ボーロ、キャラメル、さつま芋のふかしたものなど、子どもの頃に食べた思い出の菓子がたくさん登場します。中流家庭ということもあって、出てくる菓子は馴染みのあるものばかりですが、食通でもあった向田が書くとどれもおいしそうに思えるから不思議です。なかでも終戦後の一時期に父が凝ったというカルメ焼作りのくだりは、秀逸といえるでしょう。

「夕食が終ると子供たちを火鉢のまわりに集めて、父のカルメ焼が始まる。(中略)砂糖が煮立ってくると、父はかきまわしていた棒の先に極く少量の重曹をつけ、濡れ布巾の上におろした玉杓子の砂糖の中に入れて、物凄い勢いでかき廻す、砂糖はまるで嘘のように大きくふくれ、笑み割れてカルメ焼一丁上り! ということになる。うまく行った場合はいいのだが、ちょっと大きくふくれ過ぎたなと、見ていると、シュワーと息が抜け、みるみるうちにペシャンコになってしまう。」

カルメ焼は、砂糖を煮詰め重曹を加えて膨張させたもので、縁日などの屋台の菓子としても人気がありました。一見すると簡単そうですが、重曹を入れるタイミングが微妙で、素人が上手く膨らますのはなかなか大変といえます。

向田の父は、戦後の物資不足のなか、子どもたちを喜ばせたいと砂糖(赤ザラメ)を手に入れて作りはじめたものの、どうやら砂糖が膨らむ面白さに夢中になってしまったようです。一方、子どもたちはといえばカルメ焼の味わいよりも父のご機嫌を左右する、できあがりの成否の方が大事だったようで、たとえ父が失敗しても見て見ぬふりをしていたとか。単純に「親子で楽しむカルメ焼作り」とはならなかったところがいかにも向田家らしく、えもいえぬ面白さが感じられます。

※ ポルトガルから伝わった南蛮菓子のカルメラがルーツとされる。カルメ焼が煮詰めた砂糖に重曹を加えるのに対し、カルメラは泡立てた卵白を入れて膨らませて作る。固まったあと、砕いて生菓子の飾りなどに使われる。

 

※この連載を元にした書籍  『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

参考文献:

「お八つの時間」(『父の詫び状』文藝春秋、2015年)

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