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歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。

※ お菓子の画像はイメージです。お問い合わせは菓子資料室 虎屋文庫までお願いいたします。

2017.06.14

久坂葉子と羊羹

夭逝の作家

旧川崎財閥の名門に生まれ、19歳の時「ドミノのお告げ」で芥川賞候補となるほどの才能に恵まれながら、そのわずか2年後に鉄道自殺を遂げた久坂葉子(くさかようこ・1931~1952)。作品に内包される強い自意識や鋭い感性は、読み手に深い印象を与えます。彼女はエッセイ「礼讃」の冒頭で、学生の頃、夏目漱石の『草枕』を題材にした絵を十点ほど並べた「絵巻のようなもの」を作り、その中に羊羹を盛った鉢を描いたことに触れています。漱石は同作で、青磁の皿の上の青味のかかった羊羹の美しさを語っていました。葉子が知り合いの画家に絵を見せると、朱で二本の線、つまり箸を描き入れてくれたといいます。
葉子は「日本菓子にしては珍しくシンプルなもの」である羊羹ほど、どんな器にも「よくうつる菓子は他にはないだろう」として、次のように続けます。

私の家では九谷の皿を使う。染付の上にもいいだろう。また、白磁の高つきの上につみかさねてもすがすがしい。わらびのお箸も黒もじも、例の朱塗りのでも、白い象牙の箸でも似合う。一本の羊羹に、いろんな感じを添えて、香高いお茶とともにすすめることが出来るのだ。

美意識を表す

「礼讃」のタイトルは、羊羹の美に触れている谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を意識したものだったでしょうか。谷崎は羊羹の色合いの深さを愛で、漆の器に入れて日本家屋の暗がりの中に沈めたときの「瞑想的」な美しさを記しています。また、室生犀星は、赤い九谷の鉢の真ん中に「真っ黒な」羊羹を入れるようにと芥川龍之介に勧めたそうです。
誰もが愛情をもって羊羹を見つめ、そこに繊細な個性を見出して、ふさわしい器に盛り付けたのですね。四角形の「シンプルな」菓子だからこそ、それぞれの美意識をストレートに表せたのかもしれません。葉子の文章が彼女らしいのは、器とともに箸や楊枝にも心を配り、「いろんな感じを添えて」勧めることが出来る、としているところでしょうか。「いろいろな装飾をほどこした菓子よりも、ずうっと美しい」と羊羹を讃えながらも、実は羊羹を通じて自己表現を楽しんでいるようにも読み取れ、彼女の自意識の片鱗が感じられるようです。

 

※この連載を元にした書籍  『和菓子を愛した人たち』山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

参考文献:

『エッセンス・オブ・久坂葉子』河出書房新社

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