歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
※ お菓子の画像はイメージです。お問い合わせは菓子資料室 虎屋文庫までお願いいたします。

2016.07.19

武井武雄と菓子の敷紙

武井武雄 虎屋『御代の春』の敷紙『高杉晋作』(1974.1.19)
イルフ童画館(長野県岡谷市)所蔵

人気の童画家・武井武雄

大正から昭和にかけて活躍した童画家・武井武雄(たけいたけお・1894~1983)。『コドモノクニ』『子供の友』ほか子ども向け雑誌の表紙や挿絵を手掛けたり、文・画とも自作の童話を出版したりと、生涯子どものための絵を描き続けた人物です。可愛らしさと同時にどこか怖さや不気味さを感じさせる武井の作品は、子どもに限らず、多くの大人の心もつかみました。

昭和10年(1935)以降、武井は紙の種類や印刷方法、綴じ方など、一冊ごとに趣向を凝らした「刊本(かんぽん)作品」の制作にも力を入れました。螺鈿(らでん)細工や寄木(よせぎ)細工を施したもの、紙の原料となるパピルスを栽培するところから始め、完成までに4年半をかけたものもあり、139ある作品にはどれも驚くほど手間が掛けられています。限定200~500部、登録会員のみ購入可能でしたが、入会希望者数が定員をはるかに超え、順番待ちのための「我慢会」なるものまであったといいます。

菓子はオリジナルの敷紙にのせて

刊本作品の配布会では、有志の会員が菓子を用意する決まりでした。その際、出席者にとって菓子以上に楽しみだったのが、武井オリジナルの敷紙です。凝り性の武井は、日付や配る作品の題名などを事前に多色木版で紙に刷り、それに菓子をのせて出したというのです。綺麗なままコレクションしたかったのでしょう、いそいそと敷紙だけ先にしまう人が多かったとか。菓子を用意した会員は版木をもらえたといいますから、こぞって担当を買って出たのではと思います。昭和49年1月19日の会には虎屋の最中が登場しており、「御代の春」(桜と梅をかたどった紅白の最中)と書かれた敷紙が残っています。菓子選びの条件には、武井の話が聞こえるよう、食べる時に大きな音がしないことが含まれていたというので、なるほど最中は最適だったでしょう。『御代の春』のためだけにデザインされたと思って眺めると、なんだか嬉しくなってきます。

なお、武井は昭和11年から20年間に亘って『日本郷土菓子図譜』を製作しています。全国各地の170にも上る菓子を、スケッチや商標・ちらしの貼付で記録したもので、しっかり味わってつけられたコメントや、美味しそうに描かれた絵を見ると、本人が菓子好きであったことも間違いないといえそうです。

※ 機関誌『和菓子』23号には山岸吉郎氏による『日本郷土菓子図譜』に関する論稿を掲載しています。

※この連載を元にした書籍  『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

参考文献:

イルフ童画館監修 別冊太陽『武井武雄の本』平凡社 2014年

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