メニュー
歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
※ お菓子の画像はイメージです。お問い合わせは菓子資料室 虎屋文庫までお願いいたします。

2012.07.17

仰木魯堂と葛餅

葛餅

茶人魯堂

仰木敬一郎(おうぎけいいちろう・1863~1941)は魯堂(ろどう)と号し、建築家・茶人として知られています。明治後期には建築事務所を開設、茶室や住居の建築にその手腕を発揮しました。実弟の工芸家、仰木政斎(せいさい)とともに、益田鈍翁(どんのう)をはじめ、高橋箒庵(そうあん)、団琢磨(たくま)ら三井財閥系の茶人や、原三渓(さんけい)、松永耳庵(じあん)らとの交流が知られています。 松永耳庵は「茶道春秋」で、魯堂について「食物はシュンの物、庭や席の閑寂、その器いずれも型に捉われずして独自の侘一点で終始する。かつて三渓先生をして〈侘び茶の総本山〉と敬服せしめたのでもわかる」と評しています。
大正13年(1924)7月3日の朝、6時半から原宿自邸の寸暇楽庵(すんからくあん)で行なわれた茶会は、魯堂の懐石の趣向を良く表わしています。
床には「三日 はせを(芭蕉)」と署名のある「麦めしにやつるゝ恋や里の猫」の句の入った消息文を掛け、この句にちなんで、麦とろ飯をメインにした懐石に仕立てています。向付に「豆腐、胡瓜揉み」、煮物に「湯葉」、強肴に「鱚白焼きといんげん豆」、香物が「白瓜と大根味噌漬」と旬の食材を使った献立組みです。そして菓子は、濃茶には「粟田焼角皿に葛餅」、薄茶には「黒塗盆に渦巻(煎餅か落雁)、紅白有平糖」が用意されました。

葛餅

葛餅といえば、関東では寺社の門前で売られている小麦粉を醗酵させて作る葛餅を思い起こしますが、角皿との取り合わせを考えると、早朝のさわやかさを表わすように、葛の生地を露のように丸めた菓子だったのではないでしょうか。 作り方は、葛粉を水で溶いて、篩(ふるい)でこし、砂糖の入った鍋にあけます。溶かしながら加熱し、焦げ付かないように木杓子で素早く煉ります。仕上げに熱湯を少量入れて、硬さを調整し、木杓子から竹べらで丸めながら掬ってできあがり。高橋箒庵の茶道記には、手料理懐石とあるので、葛餅も手作りで、できあがってすぐのものが供されたことでしょう。
葛は冷蔵庫などで冷やすと、白濁し、硬くなってしまいますが、水に潜らせたり、霧を吹いたりして、目で涼感を楽しむことができます。皆さんもこの季節、葛餅を作るもよし、あるいは身近なお店でみずみずしさ、なめらかさ、弾力を楽しんでみてはいかがでしょうか。

※  原宿にあった寸暇楽庵は、戦前に請われて、魯堂の指揮の下、解体され海を渡り、現在、フィラデルフィア美術館で復元展示されています。

※この連載を元にした書籍  『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

参考文献:

「茶道春秋」(『松永安左エ門著作集』第5巻 五月書房 1981年)
高橋箒庵『大正茶道記』 淡交社 1991年

虎屋のウェブサイト上に掲載しております内容(上記「歴史上の人物と和菓子」内の文章を含みます)に関する著作権その他の権利は虎屋が有しており、無断に複製等行いますと著作権法違反等になります。当ウェブサイトに関する著作権等については、以下のページをご覧下さい。

著作権について


トップへ戻る