歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
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2007.08.16

荒木田久老と草餅

賀茂真淵(かものまぶち)の弟子

荒木田久老(あらきだひさおゆ・1746~1804)は、賀茂真淵の門下として『万葉集』の注解などに力を注いだ国学者・歌人として知られます。また、伊勢神宮内宮の権禰宜(ごんねぎ)を務め、伊勢神宮参拝を檀家(信徒)に勧める御師(おし)でもありました。

御師として信濃に行く

荒木田家の檀家は信濃の善光寺とその周辺の農村にありました。御師は伊勢参りを勧めるほか、初穂料を募ることも重要な務めとされ、久老は生涯3回信濃に足を運んでいます。
そのうち最初の天明6年(1786)の滞在については、『五十槻園(いつきその)旅日記』に見ることができます。当時久老は41歳、5ヶ月半にわたる期間中、檀家廻りのほか、善光寺や松代藩家老など地元の有力者へも挨拶に行ったりと、あわただしい日々を過ごしました。

三度の草餅

さて、各檀家では食事を用意して久老一行を待ちました。日記には、出された献立が細かく書かれています。料理では酒肴のほか、蕎麦や鯉など、菓子では牡丹餅がよく見られます。牡丹餅は手早く作れてボリュームもあるため、もてなしに最適とされたのでしょう。
伊勢では贅沢な食事や酒を楽しむことの多かった久老も、質素な暮らしの農民が作る心づくしの料理をきちんと食べています。そして、おいしかったものは「美味無類也」などと注記をしています。とはいえ、時には腐ったものが出たり、訪問先の主人が酒に酔ってしまったりというハプニングもありました。「草餅事件」もそのなかのひとつです。
7月3日、田子村の3軒の家を訪れた際、どうしたことか全ての家から草餅が出されました。さすがに3度は食べきれなかったのか、「甚迷惑也」と腹を立てています。ちなみに7月は旧暦の秋にあたりますが、草餅の蓬は春に摘むことから、この時は乾燥保存したものを使ったと思われます。偶然同じものが重なりましたが、檀家からすれば毎日精力的に歩く久老に蓬の薬効で疲れを癒してほしいという心遣いだったのかもしれません。

※この連載を元にした書籍  『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

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