歴史上の人物と和菓子

今も昔もお菓子好きはいるものです。歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを連載しています。
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2004.06.16

谷崎潤一郎と羊羹

翳の美

耽美主義の作家として出発、後に古典へ回帰し日本美を追求した谷崎潤一郎(1886~1965)は、『刺青』『細雪』などを代表作とし、生涯精力的に執筆活動を続けました。 昭和8年(1933)に発表された『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』では、日本に古くから伝わる漆器や調度品などを題材に、その陰翳の美が論じられています。

羊羹の美

同書で谷崎は、夏目漱石が『草枕』の中で羊羹を賞賛していたのを引き合いに、この菓子を陰翳の美しさがあるものとして述べています。 「玉のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光を吸い取って夢みる如きほの明るさを啣(ふく)んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。…(中略)…だがその羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融(と)けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。」

瞑想の菓子

谷崎は羊羹について、「日の光を吸い取って」「暗黒が一箇の甘い塊になって」と、まるで生きもののように書いています。谷崎の美学をみごとに表した、凄みすら感じる文章といえます。 簡潔な色形の羊羹は、華やかな生菓子とは異なり地味な印象を与えがちです。しかし陰翳のある深い色合いや質感こそが、人々を瞑想の境地に誘うのでしょう。

※この連載を元にした書籍  『和菓子を愛した人たち』(山川出版社・税込1944円)が刊行されました。是非ご一読くださいませ。(2017年6月2日)

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