社長挨拶

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から6年が経ちました。私たちは2012年3月より東北を訪問し、お茶と菓子のある時間をお過ごし頂く「お茶っこ会」を行っています。東日本大震災の発生から長期間にわたり仮設住宅などで避難生活をされている被災者の方々、特にご高齢者の外出の機会をつくることや孤立防止などを目的とし、社会福祉協議会の方々とともに企画・運営してきました。弊社の虎屋グループ社会貢献室に所属する社員が中心となり、活動を続けています。これまで「お茶っこ会」を約200回開催し、約6,000名の方々に和菓子を召し上がって頂きました。和菓子の中でも羊羹は、水や火を使うことなく手軽にエネルギー補給ができる上に、常温での長期保存が可能という特徴があります。また定番5種の煉羊羹は、アレルギー特定原材料を含まないため、多くの方に召し上がって頂きやすい菓子でもあります。

2012年、開始当初のお茶っこ会では、参加者の方のほとんどが、「なくなったものは帰ってこないから、前を向かないといけない。自立しないといけない」と話されていました。「マスコミの報道で、被災地のことを瓦礫の山などと言われると情けない。それは私たちの財産だったのだから」と寂しそうに語られる方もいらっしゃったという話を、現地に赴いた社員から聞き、胸が締め付けられる思いがしました。被災地の居住環境は地域によってさまざまで、多くの方が生活されていた仮設住宅は、役場や被災者サポートセンター、小売店や美容室などが隣接し環境が整っているところもあれば、10世帯程度の小規模で周囲には何もないところもありました。また、夏は暑く、冬は寒い仮設住宅での生活で健康被害にあわれた方もいらっしゃいました。一方で、一軒家や民間アパートなどの借り上げ住宅で生活されている被災者の方々も多くいらっしゃいましたが、住民間のコミュニケーションの希薄さが問題となっていました。日常生活において、同郷であっても会話をする機会がほとんどなく、お茶っこ会で初めて同郷の方とお話をされ、今後は定期的に集ろうという動きも見られました。仕事をされている若い世代ではあまり問題になっていないかもしれませんが、ご高齢の方々にとっては、バラバラになってしまったコミュニティーづくりが課題であることを目の当たりにしました。
2015年に入ってからは復興公営住宅の建設数も増え、仮設住宅は空室が増えてきました。しかし復興公営住宅での新たなコミュニティーづくりや、さまざまな事情により仮設住宅での生活を続けられている方々の孤立防止は、これからも変わらない課題だと感じています。

菓子屋の私たちができることは何かと考え、今日まで活動を続けてきました。私自身も被災地に足を運び、また銀座の地から被災地の経済復興に貢献することを目指した取り組みである、「やっぱ銀座だべプロジェクト」も続けています。商いをさせて頂いているなかで、私たちはどこかで必ず社会とつながっており、そこに対して何をすべきかということを、常に考えていなければなりません。東北地方での活動を重ねるうちに、そのことの重要性について、あらためて考えるようになりました。

「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」、この経営理念の実現に向け、社員一人ひとりが生き生きとその存在感を示していってほしい。それはいつも虎屋が目指している方向です。

代表取締役社長 黒川 光博