社長挨拶

正月の話になりますが、弊社の元日は明け方の5時頃から始まります。正月には欠かせない菓子である『花びら餅』を製造するため、東京工場では毎年30名近くの職人たちが御用場と呼ばれる製造所内に集まります。花びら餅とは、弊社の場合、円くのした餅に小豆の渋で染めた菱餅を重ね、蜜炊きした牛蒡と味噌餡を置き、半月状に折ったものです。宮中の正月の行事食である「菱葩(ひしはなびら)」を原形とし、明治時代に正月の茶の湯の菓子として作られました。一晩水に漬けた米を十分に水切りした後に一気に蒸し上げると、いよいよ餅つきの作業です。この菓子づくりの難しさは、収穫した年によって異なる米の水分量や精米の具合を見極め、餅をつく加減を調整しなければならないことです。この作業は菓子の硬さに大きく影響するため、職人たちは元日の早朝から張り詰めた空気の中、菓子づくりに挑みます。

このように弊社の原点は製造にあります。いつの時代もおいしい和菓子を喜んで召し上がって頂きたいという思いで、真面目にひたむきに、菓子を作り続けてきました。古くから販売している菓子であっても、もっとおいしくできるのではないかと考え、つくり手は日々試行錯誤を重ねています。そして何よりも、おいしい菓子を作るために必要な原材料のことを忘れることはできません。私たちは小豆や寒天といった自然の恵みを頂きながら商いをしており、そこには生産者の方々の思いが詰まっているのです。そのことを常に心に留め、限られた資源を大切に使いながら、これからも菓子づくりを続けてまいります。

「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」、この経営理念の実現に向け、社員一人ひとりが生き生きとその存在感を示していってほしい。それはいつも虎屋が目指している方向です。

代表取締役社長 黒川 光博