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遺作『豊饒の海』4部作は、日露戦争後の明治末期から、昭和40年代頃に至るまでの、主人公の輪廻転生を描いた大河小説です。その第1作目にあたる『春の雪』は、松枝清顕(まつがえきよあき)と幼なじみ・綾倉聡子との悲恋物語になります。
維新の勲功で爵位を得た松枝伯爵は、公家の優雅にあこがれ、一人息子の清顕を綾倉家に預けます。綾倉家は蹴鞠の名門で、書や歌を友として王朝時代そのままの生活を送る家でした。そこに漂う「淋しい優雅」に感化された清顕は、美しく夢見がちな青年に成長します。一方、清顕への想いから婚期を逃していた聡子に、洞院宮治典王(とういんのみやはるのりおう)との縁談が持ち上がります。
食べ物に無頓着で、味音痴を自認していた三島ですが、この作品には菓子が巧みに使われています。たとえば「薄い一口サンドウィッチや洋菓子やビスケット」。これは、洞院宮邸を訪れた綾倉親子に出されたもので、「御所風の秋草の衝立」のある屋敷で暮らす聡子と、大理石の階段のある洋館に住む宮との生きる世界の違いを際立たせています。
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